ピープルの革命 (沼野雄司 / 音楽学者・桐朋学園大学教授)
「ピープル」とは何だろうか。この語はもともと「コミュニティを形成する人々」「貴族とは異なる一般の人々」を指すものだった。柴山拓郎のプロジェクト「電子音響ピープルプロジェクト」は、まさに電子音響を核に据えた新しい音楽コミュニティを組織する試みにほかならない。いわゆる「クラシック音楽」が、五線譜という特殊な言語を学ばないと作曲も演奏もできないのに対して、電子音響を用いる作曲・演奏はアマチュア――すなわちピープル――に広く拓かれている。とすれば、これは拓く人、拓郎による革命の狼煙なのである。
説明文(柴山):
電子音響ピープルプロジェクトは、一般には “難解 “と思われがちな電子音響音楽を、子どもから大人まで多様な未経験者と共創する “参加型プロジェクト・アート”です。このプロジェクトでは、難解であるがゆえに多くの人に受け入れられてこなかった電子音響音楽が、実は多くの人が楽しんで創作できる音楽であることを、これまでのワークショップで実証してきました。
コロナで十分に活動ができなかった期間を経て、私たちは2023年からプロジェクトを再始動しました。コロナ前から協力していただいているゲーテインスティトゥート東京との再始動の協議を再開し、あらたにBankART1929、KTHスウェーデン王立工科大学の協力もいただき、これまでよりも多様な活動を展開することとなりました。
このライブでは、2023年から2024年にかけて、日本、スウェーデン、フランス、ドイツで実施した電子音響音楽創作ワークショップの後、講師を務めたプロフェッショナルな作曲家が参加者の完成作品をリミックスし、完成させた協働制作作品を上演します。また、彼らとともに日本在住の6名の作曲家を交えたオリジナル作品の上演と、このライブの運営実務を担当している、東京電機大学と東京音楽大学の学生を「未来のアーティスト」と位置づけ、彼らが創作した集団創作的な音楽作品も上演します。
この「電子音響ピープルプロジェクト2023–2024スペシャル&スペシャルライブ@ゲーテ・インスティトゥート東京」は、2023年から2024年にかけての国内外での活動を広く社会と共有することを目的とし、ライブ・パフォーマンスを中心に、「電子音響ピープル」という集団のダイナミックなポートレート映像を伴うサウンド&ビジュアル・インスタレーションの展示と、このプロジェクトの概念を社会と共有するためのシンポジウムから構成されています。